3ページ目/全3ページ 黒沼は、家に帰るために、立ち上がろうとしている俺のそばにやってきた。 俺は逃げようとしているのだが、どういうワケなのか、全く立ち上がる事ができなかった。 足に力を入れるが、身体を持ち上げる事ができない。 俺の身体は不規則に何度もぐらぐらと揺れていた。手も足も、弛緩したようになり、 思った通りに動かせないのだ。 そのうちに、腰が抜けたように、ソファの中へ俺はぐったりと倒れこんだ。 「お前ら! お前ら! 」 怒りのあまり、他の言葉は出てこなかった。 薬を盛られたんだ、俺は。 きっと、風呂場で飲んだ紫色の液体だ。絶対にそうだ。 黒沼は、罵倒している俺を抱きかかえると、鳳のいるベッドへと運んだ。 その途中、俺の耳元でこんな嫌な話を聞かせた。 「亮様。あなた様に拒否する権利などは、もともとありません。 私どもが、宍戸家のみな様のために、今までどれほど資金をかけてきたのか、わかりますか? あの家にせよ、あなた様の学校の授業料にせよ、テニスをするための道具にスクール費用に。 すでに巨額の費用が使われております。あなた様が仕事を放棄して帰ると言う事は、契約違反を するのと同じ事です。宍戸家は信頼を無くし、任を解かれます。それに応じて、今までの費用 全てを返還してもらう事になります。 お父上にお支払いができるとは、到底思えません。それで失業してしまうのですから。 では、あなた様が替りに支払いますか? 中学校を中退して、働きに出ますか? 」 俺は唇を強くかみ締めた。 父の言った《 金が無い 》と言う言葉がやっと実感できたからだ。 確かに、俺達、宍戸家の人間には、そんな金が支払えるはずが無かった。 父と母が泣いていた理由もなんとなく理解できた。何も言わなかったけれど、ここに連れて 来られた俺がどんな目に合うか、両親はきっと知っていたのだ。 その7 〜悪夢の夜〜の巻へ続く→行ってみる ![]() ![]() 2ページ目へ戻る 小説目次ページへ戻る |